2024年8月05日
胃カメラ、大腸カメラは病変の早期発見・治療に関して非常に優れた検査法と言えますが、人によっては苦痛が強く苦手意識を持っている方も少なくないと思います。
当院では検査に対する不安や緊張が強い方は特に、鎮静剤を使用することでほぼ眠った状態で検査を受けることができるため、鎮静剤を使った内視鏡検査をおすすめしています。今回は当院で使用している薬剤に関して解説していきます。
1.そもそも鎮静剤ってなに?
いわゆる一般的に言われる「麻酔薬」のことをいいます。鎮静とは意識レベルを低下させることを指します。
最近では鎮静は多くの施設で広く行われていますが、鎮静剤を使用した内視鏡検査が普及する前は、意識がはっきりある状態で検査をしていました。目が覚めた状態だと胃カメラでは嘔吐してしまう反射や腹部の圧迫感などの苦痛がありますし、大腸カメラでは内視鏡挿入時の痛み等の苦痛を感じます。
意識レベルを薬剤で意図的に低下させることで、を軽減させることが可能です。ただし、薬剤によっても異なりますが、意識レベルの低下に伴い、呼吸が弱くなったり血圧が下がったりなどの副作用も伴うため、副作用が可能な限り出ないように調整しながら使用していきます。
2. 鎮静剤の使用のメリット・デメリット
ガイドラインにおいても鎮静は内視鏡の受容性や満足度を改善し、検査・治療成績向上に寄与する、とされています。詳しく知りたい方は日本消化器内視鏡学会の内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)を参照してください。
鎮静剤の使用は楽に検査を受けれる一方でデメリットも存在します。
ここではメリットとデメリットに関して説明します。
2.1胃カメラにおける鎮静剤使用のメリット
・検査をほぼ眠った状態で楽に受けれる
内視鏡検査を受けるにあたって、鎮静剤を使用する一番のメリットはこちらだと思います。鎮静剤を使用しない場合は人によって程度は異なりますが、それなりに苦痛を伴います。過去にやった胃カメラでつらかった経験から胃カメラへの拒否感が強い方も少なくないと思います。つらい思いをしないためにも静脈麻酔を使用することをおすすめします。
・嘔吐反射が少ない
胃カメラの際に喉元でおえっとなる経験をした方も多いと思います。中には嘔吐反射が強く検査後にのどの痛みが出る場合もあります。鎮静剤を使用することで嘔吐反射がでにくくなりのどの痛みもできにくいと予想されます。
・検査の質が上がる
鎮静剤を使用しない場合、反射などが強い場合は食道や胃の中に空気がたまりづらく消化管が縮んだ状態でしか観察できないこともあります。反射が抑えられることで表面の粘膜をしっかりと観察することができ病変の見逃しが減ることが予想されます。
また、検査を受けている患者様の苦痛が強い場合は、つらい時間を減らすために早く終わらそうという検査医の深層心理が病変の見逃しに通じてしまう可能性もあります。
2.2胃カメラにおける鎮静剤使用のデメリット
・薬剤によって異なりますが、内視鏡検査後に30分程度の休息が必要ですぐに帰宅ができません
・鎮静での内視鏡検査日当日は鎮静剤の影響が残る可能性があるため、自転車を含めた車、バイク、その他機械の運転ができません
・鎮静剤による副作用(血圧低下、呼吸抑制等)が起こる可能性があります。ただし、副作用がでないように鎮静剤の用量は適宜調整します
・鎮静剤によるアレルギーが起こることがあります
・鎮静剤の血管外漏出(薬が皮下に漏れてしまうこと)の可能性があります
・無意識に自身の唇を噛んで傷つくことがあります
2.3大腸カメラにおける鎮静剤使用のメリット
・検査をほぼ眠った状態で楽に受けれる
胃カメラと同様に大腸カメラを受けるにあたって、鎮静剤を使用する一番のメリットはこちらだと思います。鎮静剤を使用しない場合は人によって程度は異なりますが、それなりに苦痛を伴います。特に便秘でお悩みの方は大腸が伸びやすい場合が多く、その場合はカメラを挿入時に大腸が伸びて痛みが強く出ることもあります。また大腸を観察する際は空気をいれるためおなかが張って苦痛を強く感じる方もいます。
ほぼ苦痛を感じることなく検査をできるため静脈麻酔を使用することをおすすめします。
・検査の質が上がる
大腸カメラは患者様の大腸の状態で大きく検査時間が変わります。大腸カメラはまず内視鏡を大腸の一番奥まで挿入し、その後空気を大腸の中にいれて腸を張った状態にしてから表面を詳細に観察していきます。鎮静剤を使用した場合は内視鏡を大腸の奥まで挿入するのが使わない場合に比較して楽に挿入できる場合が多く挿入で検査医の疲労が少ないと思われます。疲労が少ない分内視鏡検査に集中できるので見逃し等が少なくなる可能性があります。
2.4大腸カメラにおける鎮静剤使用のデメリット
・薬剤によって異なりますが、内視鏡検査後に30分程度の休息が必要ですぐに帰宅ができません
・鎮静での内視鏡検査日当日は鎮静剤の影響が残る可能性があるため、自転車を含めた車、バイク、その他機械の運転ができません
・鎮静剤による副作用(血圧低下、呼吸抑制等)が起こる可能性があります。ただし、副作用がでないように鎮静剤の用量は適宜調整します
・鎮静剤によるアレルギーが起こることがあります
・鎮静剤の血管外漏出(薬が皮下に漏れてしまうこと)の可能性があります
上記のメリット・デメリットを理解したうえで検査を受けていただきます。当院では鎮静剤使用により苦痛がなくなることのメリットが大きいと考えるため、鎮静剤を使用した内視鏡検査をお勧めします。
- 鎮静剤使用の費用は?
鎮静剤の費用は、使用する薬剤や量によって異なりますが、通常鎮静剤の費用は数百円程度です。
- 鎮静剤の使用に注意が必要な方は?
基本的には成人であれば、鎮静剤に対して過敏症(アレルギー)の経験がない方であれば投与可能です。
ただし、重度の肺疾患、心疾患、腎疾患を患っている方、感染症にかかっている方は全身状態を考慮し使用することができない場合があります。検査前に医師と相談が必要です。
3.鎮静剤の種類に関して
日本で使われる内視鏡検査の鎮静剤・鎮痛剤として
・ジアゼパム
・ミダゾラム
・フルニトラゼパム
・デクスメデトミジン塩酸塩
・ぺチジン塩酸塩(鎮痛薬)
・プロポフォール
等があげられます。
当院では鎮静された状態から回復するまでの時間や鎮静の効果のバランスからプロポフォールとミダゾラムを使用しています。
3.1プロポフォールについて
当院ではこの薬剤を使用する場合が多いです。投与してから効果がでるまでの時間も短いため速やかに検査を開始できます。薬の効果時間が短いため、効果がきれるまでの時間が早く休む時間が短く済むのも大きな利点です。一方で適切に用量調整をしないと過剰投与での副作用発現に注意が必要なためプロポフォールの使用経験が豊富な医師による管理が必須と考えられます。
大豆や卵の油の成分が含まれるため、大豆・卵アレルギーの方は使用できない場合があります。また、てんかんの既往がある方も発作が起こる可能性があり使用できない場合があります。
3.2ミダゾラムについて
以前より広く使われている鎮静剤です。正確なデータではありませんが、おそらく最も多くの施設で使用されている鎮静剤と思います。プロポフォールと比較すると投与してから効果がでるまでの時間が長く、効果がきれるまでの時間もゆっくりであるため検査後に休んでいただく時間も長くなる傾向があります。検査後に薬剤の作用によるふらつきが続く場合もあります。プロポフォールが使用しにくい場合はこちらの薬剤を使用することがあります。
4. 当院での実際の鎮静剤を使った大腸カメラの流れ
4.1 前日までの流れ
まず大腸カメラ検査の事前準備として食事制限が必要です。検査の前日には、消化に良い食事を摂取し、指定された下剤を飲みます。この準備により、大腸内がきれいになり、検査がより正確に行えます。
- 当日検査するまでの流れ
事前に当院を受診し、自宅で下剤内服を選択された場合は、指定された時間に下剤を内服していただき当院を受診していただきます。
院内で下剤内服を選択された場合、別日に事前に診察を受けていない場合は、内視鏡の検査説明等をクリニックに到着してから説明を受けていただきます。その後下剤内服を開始していただき便がきれいになるまで1~2L程度の下剤を内服していただきます。院内で下剤を内服される際は、個人差は大きいですが2~3時間程度かかります。きれいになり次第専用の服に着替えていただき、準備がととのうまで待機していただきます。
- 検査の流れ
準備ができたら検査台に移動していいただきます。本人確認や検査内容等の確認後に横になっていただき、血圧や全身の酸素が問題ないかの確認をします。
鎮静剤の使用が問題ないと医師が判断し鎮静剤を投与します。当院で通常使用している鎮静剤であれば1分程度で効果が出てきます。適切な鎮静状態となったら大腸カメラ検査を開始します。検査中は酸素・血圧などの数値をモニタリングしながら、必要に応じて、酸素投与などの対応をすることで安全性を重視しながら検査を進めます。苦痛が最小限になるように鎮静剤を適宜追加します。
検査時間はかなり個人差がありますが概ね大腸カメラのみで20~30分程度で終了します。胃カメラと大腸カメラを同時に受ける場合は30~40分程度で終了します。
- 検査後の流れ
検査後は血圧や全身の酸素の数値、意識状態を確認し、当院の監視解除(退出)基準を満たしたのを確認後に休憩室で休んでいただきます。患者様が大丈夫なように感じてもふらつきで転倒する危険性があるため、立ち上がらずに横になった状態で鎮静剤の効果がある程度抜けるまで20~30分程度しっかり休んでいただきます。
その後、大腸カメラの結果に関して診察室で医師の説明を受けていただき、必要に応じて症状や疾患に対しての治療の相談となります。
診察終了後は追加の検査がなければ会計となります。
当院は札幌での大腸がん死亡率減少を目標にかかげ、苦痛の少ない大腸カメラ、精度の高い内視鏡検査・治療を目指しています。